前回:「モテるために必要なのは、モテる努力じゃないから」週末の昼下がり、渋谷にカフェで、とある女子が友人に向かってふいに放った言葉・・・
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「 モテ服という幻想 」
カレの脳裏で迷宮入りするかと思われた「とある未解決事件」は早々に捜査が打ち切られた。
「女子に嫌われる男子の特徴」
ネット検索の結果、あっけなくその真相が判明したからだ。
その中でカレがすぐに改善できそうだと思ったのは「服がダサい」。
早速、ショップ店員さんに勧められるがまま「モテ」フルコーデを購入、高揚感と大きな紙袋を抱えてカフェに入った。
渋谷の喧騒から少しだけ距離を置き、まるで来店を拒むかのような坂道のほど先にある『tokyo salonard café:dub(トーキョーサロナードカフェダブ)』。
オトナの雰囲気満ちる店内で、まずは高揚感を落ち着かせようと冷たいドリンクを注文した。
後ろの席では女子二人が、それぞれ大きな紙袋を脇にかかえて楽しそうに話している。聞こえてくる会話から、どうやら今度の合コンのための勝負服を新調したようだ。
とある女子:「モテ服なんて言ってる時点でそのオトコ、モテないんだろうなって思う」
ショップ店員さんおススメの「モテ服」を脇にかかえ、ゴキゲンでドリンクを飲んでいたカレの手が止まる。自分だけに向けられたかのようなカノジョのその言葉は、恐々としながらもカレの興味をとらえて離さない。テーブルの上に置かれたグラスの中の氷とともに、カレの意識もまたその会話の中へとゆっくり溶け込んでいく。
テーマはずばり「モテ服について」だった。
モテ服着てます的なオトコって、ほとんどがやり過ぎてて、たいてい「トレンド完璧に押さえてますコーデ」か「全身ハイブランドコーデ」のどちらか。
そんな「足し算だけのオシャレ」見てると、このオトコは自分に自信ないんだろうなって思う。
とある女子:「そもそも服とは何か、をわかってないからモテ服なんて勘違いするんだよ。服なんて人を包むためのラッピングにすぎないのに」
本当に大切なのは「どんな服を着るか」ではなく「どんな人になるべきか」。
身につけなければいけないのは、服よりまず人間性なのである。
とある女子:「流行だのハイブランドだのを身につけてドヤ顔キメてるようなカッコばかりの残念なオトコはそのへん全然わかってないんだろうね」
カレは、その心の中ですら何も言えず、ただただ耳を傾けるしかなかった。
とある女子:「雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)」
友人:「突然、なに??」
とある女子:「ローマは一日にして成らず、ってこと」
友人:「それならなんとなくわかる」
服は良くも悪くも一瞬で変えられるもの。
しかし、人間性は一朝一夕で変えられるものじゃない。
とある女子:「目指すべきはココロのハイブランド化。人間性あっての服だから」
友人:「元ショップ店員だけに説得力ある~」
モテ服について熱く語っていたカノジョはなんと元ショップ店員だった。
服が大好きだからショップ店員だったのでは?そのカノジョがなぜ服をしょせんラッピングにすぎないなどと言うのか?カレの興味はさらに深みへ。
似合っていないのに「ステキです!」。
サイズが合っていないのに「これはタイトに着るのもアリですよ!」「ゆったりめがトレンドです」。
上司からは「会社に必要なのはお前の人間性じゃなくて数字(売上)なんだよ!」
服が好きで、オシャレが大好きだったからこそ、カノジョはその板挟みに耐えられなかった。そして、服と自分を嫌いになりたくなかったから、カノジョはお店を辞めた。
とある女子:「いつまでも青臭いこと言って、って思ってるんでしょ?」
友人:「それがあんたのいいところ・・・って言って欲しいんでしょ?」
とある女子:「バレた!?」
笑いながら二人はお店をあとにする。
だけど、カノジョの笑顔は最後までどこか寂しそうだった。
隣で寂しく佇む「モテ服」をカレは見つめる。
みんなモテたいし、報われたいし、救われたい。
モテ服という幻想。
非モテ脱出のために、まずは手っ取り早く一瞬で変われるのが服装、そんな安易な考えで「モテ服」に手を出した自分が恥ずかしかった。
ショップ店員さんは悪くない。
悪いのは「嫌われない努力」をはき違えていた自分だ。
「大切なのはココロのハイブランド化」
カレにとってその道のりは険しく、そして果てしなく遠い。
―「諦めたら、そこで試合終了ですよ」
カレはふと、スラムダンクのその言葉を思い出していた。
桜木花道は黙々と基礎練習を続けたからスラムダンクを決められた。
三井寿はココロの声に素直になれたからまたバスケを続けられた。
ひたむきに頑張る姿はいつでも光り輝き、そして美しい。
どんなところにもモテる秘訣は隠されている。
それを見つけられるか、気づかぬままか、そこがモテるオトコの分岐点であることを非モテのカレが知るのはもう少し先になりそうだ。。。
つづく
文・山田孝之 編集・白瀧一洋