第3話 「 飲み会に遅れてくる男 」vol.1

前回:「モテ服なんていってる時点でそのオトコはモテない」というカノジョたち。。。モテフルコーデを購入したカレは、カフェで奈落の底へ落とされる。。。。

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第3話 飲み会に遅刻してくる男 

 

「ココロのハイブランド化」ってなんだろう。そもそも人間性ってなんだろう。

ちまたでよく聞く言葉でも、改めてその意味を聞かれると答えに詰まることは、ままある。

今日も一人、カレは少々ささくれた気持ちで渋谷のカフェ『MOJA in the HOUSE』にいた。

乗る予定だった電車が目の前で発車してしまい、さらには朝から発生している通信障害によってスマホの電波が繋がりにくくなっている。

カウンター席でコーヒーを待ちつつ、スマホで「人間性」という言葉を検索しようとするが、なかなか検索結果が出てこない。

 

ったく・・・イライラした気持ちでスマホの画面を見ていたカレの背後から、その言葉は鋭角に飛んできた。

 

とある女子:「たまにいるよね、わざと遅刻するオトコ」

友人:「いまだにそれをモテテクだと思ってるオトコってある意味凄くない?」

 

ー わざと遅刻?それがモテテク??
カレの中にはわざと遅刻をするという発想がなかった。

むろん、その理由を知る由もない。

 

ー ヤバい!乗り遅れちゃいけない!!

「人間性」についての検索結果よりもまず、カノジョたちの話を聞くことがカレにとって最優先事項となった。

カレは慌てて、背後にいるカノジョたちの「会話の電車」へと飛び乗った。

 

おもに合コンのような男女が集まる場において、そのテクニックは披露される。

遅れて登場することで場の注目を集められたり、忙しさを演出して自分が仕事のデキるオトコであることをアピール出来るのだ。

わざと遅刻するオトコたちの中には「ヒーローは遅れてやってくる」という不文律があるのかもしれない。

 

とある女子:「ウルトラマンとか、仮面ライダーとか、いわゆるヒーローものの影響、あると思うんだ。だって彼ら、必ず遅れて登場するでしょ?」

 

カノジョは大きくため息をつき、うんざりしながら言葉を吐き出す。

とある女子:「何で気づかないんだろう、あの矛盾に」

友人:「矛盾?」

 

大怪獣を前に人々が逃げまどい、建物が破壊されていくなかウルトラマンは登場し、殴られたり蹴られたり、さんざん人々が苦しんでいるところに仮面ライダーは参上する。

 

とある女子:「もっと早く来れるよね?って思わない?ウルトラマンにしても、仮面ライダーにしても。悪者が出てきた時点ですぐに変身して登場すれば、無駄に人が傷ついたり建物が壊されることはないわけじゃん?ま、、、実際のところはウルトラマンや仮面ライダーは物語を盛り上げるために、わざわざある程度の被害が出てから登場するんだけどね。所詮、作り物だから」

 

しかし、リアル社会で遅刻してくるのはヒーロー気取りのただのバカである。

この人は時間を守れないルーズでだらしない人なんだな、と思われるだけなのに、それがわからないのだから救いようがない。

 

遅刻することで相手の時間を無駄にしてしまい、その後の予定も変更を余儀なくさせるのに、何より自分を少しでも良く見せたいという身勝手な理由で遅れてくるようなオトコなど、ホントにクズである。

そこには相手へのリスペクトもなければ、優しさや微塵の思いやりもない。

 

とある女子:「自分さえよければいいって理由で遅れるヤツには絶対わからないだろうけど、遅刻ってそういうもんだよ。全部とは言わないけど、たったそれだけで『人間性』ある程度わかるからね」

 

カレはハッとした。

そうだ、さっきまで自分は「人間性」についてスマホで調べようとしていたんだった。

 

カレはスマホ画面に目を落とす。

『人間性とは、その人の人間的な性質、つまり思いやりの心・気遣いの心、愛情など人間の内面のことを指す。 他の動物やモノと違い、人間として生まれつき備えている性質が人間性である。一方で、他者に配慮した行動が出来ず、自己中心的な考え方しか出来ない人を総じて人間性に欠ける、あるいは人間性がないという』

 

友人:「だけどさ・・・」

 

つづく

 

文:山田孝之  編集・白瀧一洋

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