第8話「ブランドを纏った裸の王様」Vol.1

「未来はいつだって変えられる」

目の前の厳しい現実を目の当たりにしたとき、カレの頭の中にふと浮かんだ言葉だ。

よしっ!・・・カレはココロの中で呟き、進むべき方向を変え、歩き出した。

 

そんな大仰な思いとは裏腹に、実際に起こっていたのは、とあるカフェに行こうと渋谷駅のB1出口を出たところで目前に立ちはだかった予期せぬ雨。

そんな時、まるで雨霧に煙る蜃気楼の如く目の前に現れた駅直結のカフェに気づき、躊躇逡巡する間もなく入ったという、ただそれだけの話である。

 

とある女子:「ねえ、見て」

渋谷『FREEMAN CAFÉ』その窓際席、カノジョが友人に声をかけた。

カノジョの視線の先にあるのは、宮下公園の再開発により誕生した

複合施設 新生 宮下PARK、その路面店群。

とある女子:「ヴィトン、グッチ、バレンシアガ、プラダって並んでて、その延長線上並び少し離れて渋谷横丁、なんかアジア市場とか夜市っぽくない?」

友人:「なんかストリート系っぽくて、ハイブランド感薄めだしね」

とある女子:「あのゴチャゴチャ感というかワチャワチャ感、まんまこないだのカレじゃん」

友人:「ハイブランドの総合デパートみたいなカレでしょ?よくそこまで全身すき間なくハイブランドを重ねられるな、みたいな。ってか、あのあとしきりにカレの将来を憂うとか言ってたけど、あれどういう意味??」

 

将来を憂う??確かに、その意味がとても気になる。

未来を変えた結果が奏功したか、今日も興味深い話が聞けそうだ。

カレはドリンクメニューに目を落としつつ、耳と意識をカノジョたちに傾けた。

 

とある女子:「まだ若いのに、あの歳で全身ハイブランドコーデって、なんか残念だなと思って」

 

わかるようでわからない言葉が日々尽きることなく目の前に現れる。

カレは「ハイブランド」という言葉に馴染みがなかった。

カノジョたちの話に耳を傾けつつ、慌ててその言葉を検索する。

 

『ハイブランド』とは、歴史があり貴族から愛された、実績あるブランド。

例えばエルメスは200年以上の歴史を持ち、かのナポレオンも愛用していた。他に、ルイ・ヴィトンやグッチ、ブルガリなどもハイブランドである。

 

つまり最上級レベルのブランドということだろう、と納得しつつ、そんな凄いブランドで全身コーデしているのなら、それってスゴイことなのでは?そんな素朴な疑問を抱きつつもネット検索を続けると「全身ハイブランドコーデはダサい」という否定的な記事がいくつも出てくる。

 

そうした記事を一通り読み終えたカレは複雑な思いを抱いていた。

なるほど、と納得の意見もあるが、ただの言いがかり?ハイブランドを買えない人の僻みや妬みなのでは?と思う意見もある。

 

オシャレとは程遠い、ダサい自分がハイブランドについてとやかく言うのもなんだが、自分で稼いだお金で全身ハイブランドコーデしたいなら好きにすればいいんじゃないか。

カレのそんな思いに呼応するかのようなタイミングでカノジョが全身ハイブランドコーデの一過言を展開していく。

 

とある女子:「全身ハイブランドコーデはダサいってよく言うけど、そんなことはどうでもよくてさ。私が言いたいのは、姿勢というか覚悟というか、メンタルな部分」

友人:「メンタル??」

 

霧が深すぎて一寸先すら見通せないカノジョの言葉に戸惑いつつも、内心ではワクワクしながら、カレは霧の先にある、未知なるその続きを待つ。

 

 

Vol.2につづく

 

文・山田孝之 編集・@marony_1008

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