第17話「昔ワルかった自慢? デキるオトコのギャップとは」Vol.1

渋谷・松濤にほど近いカフェ

『café Bohemia』(カフェ ボヘミア)は、異境感を醸すその雰囲気を愉しみつつ、海外リゾートのようなゴージャス感を味わえるオトナの空間である。

そんな異空間に、オリエンタルな匂いを感じたカレが注文したのはチャイ。旅人のバイブルとも言われる小説『深夜特急』で、主人公が幾度となく飲んでいたのを思い出したからだ。

 

ツーリスト気分で一人旅ならぬ「ひとりカフェ」を愉しむ午後のひととき、カレを未知の旅へと誘(いざな)わんとするその言葉は、エアメールのような軽やかさでカレの席に届いた。

 

友人:「ギャップのあるオトコってよくない?」

とある女子:「ギャップ萌え?」

友人:「そう」

とある女子:「じゃ例えばさ『不良だけど動物好き』と『動物好きだけど不良』なら、どっちがいい?」

友人:「・・・不良だけど、動物好き? ってか、言ってること同じじゃない?」

とある女子:「うん。けど選んだのは『動物好きだけど不良』じゃなくて『不良だけど動物好き』じゃん。何でだと思う?」

友人:「何となく?」

とある女子:「ちゃんと理由があるんだよ。ゲインロス効果っていって・・・」

 

渋谷のリゾート空間でチャイを飲みながら聞く、ギャップについての考察。

それはまるで非日常と日常のはざまを揺蕩(たゆた)うかのように、カレの意識にゆっくりと溶けていく。

 

「ゲインロス効果」とは、相手に対して最初にマイナスの印象を与え、その後にプラスの印象を与えたほうが、より良い印象を抱かせることができるという心理テクニックである。ゲイン(プラス要素)とロス(マイナス要素)をうまく使い、アピールすることで相手のココロを掴むのだ。

友人が選んだ答え「不良だけど動物好き」は、ゲインロス効果の理想的な最適解といえるだろう。

 

とある女子:「ギャップ萌えを狙うんだったら、プラス要素とマイナス要素を伝える順番は絶対間違えちゃいけないし、それ以上に女子ウケする『萌え要素』をきちんと把握しとかなきゃなんだけど、例えば飲み会とかでよくいるじゃん?最初は前のめりにデキるオトコアピールとかしてて、それが終わると自分の魅力のダメ押しとばかりに、ギャップ萌え狙って『だけど俺、昔はヤンチャしてたからさ』とか言ってドヤってるオトコ」

友人:「いるいる!」

とある女子:「多くない?オトコの昔ワルかったアピール。イマドキあれ聞いてトキメク女子がいるって本気で思ってんのかな?」

友人:「ワルだの不良だのに憧れるって超ハズくない?」

とある女子:「昔ワルかったアピール始めた途端、一気に醒めるよね」

 

不良だのワルだの、それはファッションにおける着こなしだったり、ブランドコンセプトなら「オトナの遊び心」としてアリかもしれないが、リアルな不良やワルの悪行アピールなど誰も求めていない。

 

とある女子:「自分がイケてると思ってるオトコって、自分のスペックに自信持っちゃってるから、そこに『今はきちんとしてるように見えるけど昔はワルかった』みたいなのを挟めばそれがギャップ萌えになるって思い込んでるんだよ」

 

女子たちを萌えさせるはずが、その内容も、そして伝える順序も間違ってとことん萎えさせる。しかもほとんどの場合、その間違いと勘違いに気づかぬまま、オトコたちは気分良く、自分の「ワル」な武勇伝をドヤ顔で語り続ける。

 

とある女子:「モテたいオトコほど、周りを出し抜くために最初から猛アピールして自称100点満点なイケてる自分を見せてくるじゃん?例えば会社名とか華やかに見える仕事内容アピール、服や持ち物のブランドでカネ持っててセンスいいですよアピールだったり、クルマとか住んでる場所とかで財力アピール、あと有名人や芸能人と知り合いですアピールとか」

 

もしそこで終わっていれば、よくいるナルシストとして女子の間の笑い話程度で終わるのに、そこから始まるモテたいオトコたちの勘違いアピールは、スベり続けるコントのようなもの。

 

とある女子:「そもそも、モテたいオトコのアピールってほぼほぼマイナスじゃん?全く羨ましいと思えない、ただの自慢話だから。なのに、そこからさらにマイナス要素を持ってくるってスゴくない?しかもそれで『ギャップ萌え』狙ってんだから本気のバカじゃん。無知って怖いよね」

 

やや感情寄りの強烈なディスりにおののきつつも、カノジョの言葉はカレの中で腑に落ちる感じがしていた。それは、非モテなカレにとって、いわゆるイケてるオトコたちの上から目線にずっとモヤっていたからかもしれない。

 

とある女子:「ギャップ萌えっていう言葉もその効果もわかってるはずなのに、ちゃんとした知識と使い方を知らないって、そんなんでデキるオトコぶってるオトコって、ほんっとダサすぎて引くわ。あと・・・」

 

カノジョの「自称デキるオトコ斬り」はまだまだ止まらない。

 

Vol.2へつづく

 

文・山田孝之  編集・@marony_1008

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