第14話「 初デートでチェーン店! アリ? ナシ?」Vol.1

渋谷『WHITE GLASS COFFEE』の窓際席には二人の女子が座っていた。

 

インスタにでもアップするのだろうか、ひとりの女子は運ばれてきたデザートとドリンクの写真を撮りつつ、スマホを操作している。

そんな様子を微笑ましく思いながら、カノジョたちの隣のテーブルでカレはブレンドコーヒーを愉しんでいた。

 

店内に鎮座するドイツ製プロバット社マシンにて焙煎された数種類のシングルオリジンを絶妙に配合したオリジナルブレンドの香りが、日常と非日常の狭間をうまく調和し揺蕩う薫りとなって、店内の1コマ1コマを水彩画のように縁取っていく。

 

天気のいい穏やかな午後のひととき、店内も平和そのもの・・・だと思われたが、その状況を一変させるきっかけは、こんな些細なひと言だった。

 

友人:「最初のデートでチェーン店ってありえなくない!?」

 

そういえば、なにかの番組で女性タレントも言ってたな・・・

カレ自身、恋愛における基本情報としてそのことを何となく認識していたので、特に気にすることなくカノジョたちの会話を聞いていたのだが。

 

とある女子:「そんなことばっか言ってるから、アンタはいつもオトコにダマされるんだよ」

友人:「・・・はぁ?」

 

ガラガラガラ・・・賑やかなはずの店内にキャリーケースを引く音がやけに響く。ゴロゴロといなびく雷鳴のように。

明るい店内の一角では不穏な空気が漂い始めていた。気づけばそこで積乱雲が発生している。局地的なゲリラ豪雨の予感であった。

 

恋愛において、最初のデートでチェーン店に行くことは基本的には「禁じ手」であり、最初のデートは雰囲気よさげ&それなりにお高めなお店をチョイスするのがよし、つまり「常識」とされている。

 

最初のデートでチェーン店に行くことなどありえないと語るその友人女子の意見は至極真っ当に思えるが、それがどんな風向きで「いつもオトコにダマされる」その結末へと流れていくのか・・・ゲリラ豪雨になる前から既に、カレだけが全くの視界不良に陥っていた。

 

・・・ガラガラガラ。

ようやくキャリーケースを引く音が止んだ時、それを合図にカノジョが再び口を開いた。一滴、また一滴、刺々しい言葉の雨がそのテーブルへと、いよいよ落ち始めたようである。

カレは慌てて傘をさし、その様子を見守る。

 

とある女子:「じゃ訊くけど、何で最初のデートでチェーン店がダメなわけ?」

 

デートは非日常であり、だからこそいつもとは違う、いい感じのお店に連れて行って欲しい・・・たいていのチェーン店は賑やかであり、ロマンティックな雰囲気の場所ではない・・・リーズナブルなチェーン店に連れていかれるオンナ=私はお金をかける価値のないオンナだと思われているのではないか、等々。友人女子は最初のデートでチェーン店がNGであるいくつかの理由を一気に捲し立てた。

 

とある女子:「でも、カレはアンタをそのチェーン店に連れてったわけだよね?じゃ、敢えてそこに連れていった理由は?」

友人:「知らないよ、そんなの」

とある女子:「カレに訊いた?理由」

友人:「訊けるわけないじゃん!」

とある女子:「じゃ、お店でどんなこと話したの?」

友人:「覚えてない」

とある女子:「覚えてないってどういうこと?」

友人:「だって、そんなとこに連れてかれて、それだけでテンションダダ下がりだし腹も立ってたから、30分ぐらいで具合悪いって帰ってきた。そうなるでしょ、普通」

友人女子は見た目も華やかで、いかにもリア充な雰囲気を醸しているがゆえに、カレにとってはその行動も何となくだが頷けた。

 

とある女子:「ってことはさ、カレがアンタをチェーン店に連れていった本当の理由を知らないのに、自分の勝手な推測や憶測だけで自分が安く見られてるだの、大切にされてないだの言ってるってことだよね?」

 

確かに、そうかもしれない。

しかし・・・カレはココロの中で友人女子の言い分を支持していた。

自分でも驚くほど自然に。そして、当然のように。

なぜだろう?

カレはカノジョたちの会話を聞きながらも、その理由について考えてみる。

そして思う。

カレ自身、ココロのどこかで最初のデートでチェーン店はない、と思っているのだ。

それはなぜか?

おそらく・・・いや、間違いない。

 

Vol.2へつづく

 

文・山田孝之  編集・@marony_1008

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