第20話「恋も流行りもキョリ感が大事」Vol.1

東京国立博物館の特別展を観終えたカレは、その興奮冷めやらぬまま上野恩賜公園内のカフェ『上野の森PARK SIDE CAFE』にいた。

他にも国立西洋美術館や国立科学博物館など、いくつかの美術館、博物館、そして動物園をも有する日本最古のこの公園は、都会の森であり、知識の森でもある。

 

窓際近くのテーブルで特別展の図録を拡げ、カレは鑑賞の余韻に浸っていた。

 

友人:「やっぱ私、見る目ないのかな」

とある女子:「ってか、アレじゃいいとこ見つけるほうが難しいよ」

 

隣のテーブルから聞こえてきたその言葉は、図録に夢中になっていたカレのその視線を遮るかのように目の前を通り過ぎ、栞となってページに挟まれた。

さりげなくカノジョたちを見ると、カレと同じ展示の図録やグッズを持っている。

 

「見る目ない」という言葉から連想されるのは、展示についての感想だ。

自分も誰かと一緒だったら、こうしてカフェでコーヒーでも飲みつつ、その誰かと鑑賞後のおしゃべりを楽しめるのにな、とささやかな妄想をしてみる。

しかし、作品に対して「いいとこ見つけるほうが難しい」とはなかなか手厳しい。

 

友人:「なんか雰囲気よさげだったし」

とある女子:「あのさ、絵は雰囲気でもいいけど、オトコは雰囲気で判断しちゃダメでしょ」

 

・・・ん?

図録を拡げながらカノジョたちの会話のページをめくっていたカレだったが、全く見当違いのところを開いていることに気づき、慌てて別のページを開き直した。

 

そう、それは「展示の作品について」ではなく、カノジョたちが「先週合コンで出会ったオトコについて」の話だった。

 

とある女子:「ちょっと話せばわかるじゃん?流行りモノ追っかけてるだけの中身スッカスカのミーハーオトコだって」

友人:「美術館とか博物館とかたまに行くって言ってたからつい・・・だって美術館や博物館に行くオトコって魅力3割増しじゃん?」

とある女子:「スーツじゃないんだからさ」

友人:「それに、ちょっとチャラそうな雰囲気だけど、実は美術館や博物館行くって聞いたら、ちょっとオッ!ってならない?」

とある女子:「こないだ映えスポット行ったとか、映え飯食べたとか、今をときめく誰々に会ったとかさ、とにかく流行りモノとか話題になってるコトが大好きで自慢したがりの、しょーもないミーハーマウントオトコに萌えも映えもトキメキもなくない?普通」

友人:「言われたらそうだけど・・・」

とある女子:「それに、見た目も3割増しだったし」

友人:「どういうこと?」

とある女子:「夜の闇が見た目を盛ってるってこと。薄暗いとこで見たら誰でもそれなりに見えるでしょ?」

友人:「・・・けど、流行りモノとか場所とかよく知ってるから、それなりに楽しくていいかもよ」

とある女子:「タグるかタブればよくない?カレの場合、未だにググってそうだけど」

 

トレンドを常に意識しチェックすることはモテテクだとばかり思っていたが、一概にそうとも言えないのかもしれない。

そう、今は誰もが指先ひとつであらゆる最新情報を手に出来てしまうのだ。

 

とある女子:「映えスポットに行くことや、最新の話題を知ることがゴールだと思ってるオトコが多いけど、実はそこからがスタートだから」

友人:「どういうこと??」

とある女子:「だって、映えスポットや最新の話題をただ見せたり話したりするのって、せっかくのプレゼントをむき出しのまま相手に渡すようなもんじゃん。映えスポットをどう魅せるか、最新の話題をどう披露するかがキモなわけよ」

 

ま、そのあたりのオトメゴコロをくすぐれるオトコはなかなかいないんだけどね・・・カノジョはボヤき、短いため息をつきつつ、言葉を継ぐ。

とある女子:「人間を人間たらしめてるものって考えたら、やっぱ『考えること』じゃん?考えるアタマがあるから人間なんだよ。『考える葦』とも言うしさ」

 

「人間は自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは『考える葦』である」自然の中における人間の存在としてのか弱さと、思考する存在としての偉大さを言い表した、フランスの哲学者パスカルの言葉である。

 

とある女子:「歩くグーグル君もさ、きっとモテたかったりマウント取りたくて流行りだのトレンドを追いかけてるから、そこだけ見れば何となくアタマ使ってるように見えるけど、実は何にも考えてないんだよ。だってそうじゃん、流行ってたり話題になってるそのモノやコト自体に興味があるんじゃなくて、流行ってたり話題になってるっていうその事実だけに興味があるわけだから」

 

そのオトコにとってのすべての判断基準。

それは・・・

 

Vol.2へつづく

 

文・山田孝之  編集@marony_1008

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