第5話「会話の7:3の法則」vol.1

その日、カレはカフェに行くことを迷っていた。

今週は残業続きであまり寝ていないせいか、カラダもだるいし何より眠い。

カレにとって「会話を巡る」カフェの旅は刺激的だが、心身の充実あってこその趣味である。

 

カレはココロの中でつぶやく。

カフェに行くべきか否か、それが問題だ・・・そこでふと、ハムレットのセリフを思い出す。「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」

ところでハムレットってどんな物語だったっけ?

気になりだしたら眠れなくなるのがカレの悪い癖。観念してベッドから抜け出した時は、時計の太い針が既に右側の時間を指し始めていた。

 

眠気の余韻を残しつつも、渋谷の『MARGARET HOWELL CAFE(マーガレット・ハウエル カフェ)』に到着したカレは、いつものようにまず周りを見渡し、女性二人組を探してその近くの席に陣取った。

 

眠気覚ましにはやはりコーヒーだろう。

アタマの栄養に今日は砂糖とミルクを多めにしようかと考えていたその時だった。

 

友人:「で、どうだったの?」

とある女子:「髪型が七三なのはいいけど、会話まで七三だったからそこが残念だったかな」

 

カレはすぐさま「会話の七三」と検索してみる。

なるほど、会話術としての7:3が次から次へと出てくる。

ー「これは使える!」

どの記事でも会話の7:3はモテテクとして紹介されていることに思わずテンションが上がり・・・かけたが、いや待て。

カレは思考を止め、落ち着いてカノジョの言葉を反芻する。

 

「残念」・・・その言葉がカノジョの会話の七三についての評価なのである。

その理由が明らかになる前に、カレは目の前のコーヒーに砂糖とミルクを多めに投入し、寝不足で少しボーッとしている自分のアタマに喝を入れた。

 

リスニング体制が整ってすぐ、カノジョの次の言葉が流れてきた。

 

とある女子:「大事なのは会話の内容であって、お互いが盛り上がればそれでOK、七三なんてどうでもよくない?」

 

カノジョの話に耳を傾けつつ、カレの中に疑問が生まれていた。

カノジョはなぜ髪型七三オトコとの会話を会話術の7:3と思ったのか?その疑問を見越したかのようなタイミングでカノジョからその理由が明かされる。

 

とある女子:「会話七三の人って、みんな判を押したかのように質問攻めじゃん?趣味は?血液型は?好きな食べ物は?好きな色は?って」

質問に答えたあと、そこから話を拡げていくのかと思いきや「そうなんですね。」「なるほど。」で次の質問へ。

 

とある女子:「まるで会社の面接か、刑事の取り調べだよ」

 

今やネット検索するだけでたいていの情報は手に入る。それは恋愛についても同じ。どうしたらモテるか、デートプランや会話術、モテ服などこれでもかとネット上に溢れている。

 

とある女子:「仕事や勉強や趣味で忙しくても、カノジョ欲しい人はきっとみんなせっせと情報収集してるんだと思う。それこそ寝る間も惜しんで」

しかし、ネット上に溢れている情報だからこそ、たいていの恋愛テクニックは相手に見透かされる。今回の会話7:3のように。

では、どうしたらいい!?

 

つづく

 

文・山田孝之 編集・白瀧一洋 

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