とある女子:「デキるオトコにとってのオフは自分のスイッチを切るとき。そう、寝るとき。だって、起きてるときは常に普段通りの自分だから」
友人:「デキるオトコにはプライベートはないってこと?」
とある女子:「そうじゃなくて、ホントにデキるオトコは仕事だからとかプライベートだからって分けたりする必要ないんだよ。普段の自分であれば仕事もプライベートも表裏なくスマートにこなしちゃうわけだから。ま、本人にその自覚はないだろうけど。だからこそ、デキるオトコなんだけどね」
友人:「いる?そんなオトコ?」
とある女子:「探し方次第じゃない?星の王子様も言ってるじゃん『ココロで見なくちゃ物事はよく見えない。かんじんなことは目に見えない』って。社会的なデキるオトコじゃなくて、人間的にデキるオトコに目を向ければ違う世界線が見えるんじゃないかな」
友人:「けどさ、デキるオトコだとギャップ萌えって難しくない?普段がきちんとデキてるわけだから」
とある女子:「わかってないなぁ。あるじゃん、とっておきのが」
カレには想像もつかない。友人も首を捻ったまま動かない。
とある女子:「ね・が・お(寝顔)」
友人:「!」
とある女子「想像してみて。デキるオトコがオフった時にだけ見せる寝顔。あどけないかもしれない、もしかしたら眉間にしわ寄せてるかもしれない、ひょっとしたら口開いてるかもしれない、だけど、どんな寝顔でもヤバくない??」
友人:「究極のギャップ萌えじゃん!!!」
大興奮のふたりであった。
究極のギャップ萌えに沸くカノジョたちを背に、カレは思う。
常にオンというカノジョの考え方は理解できるが、「仕事は仕事」というオンオフの割り切りに救われている人もいるのが現実だ。
朝から晩まで罵倒されたり、人扱いされなかったり、あるいはカラダが軋むような仕事は確かにある。精神的に、肉体的に常に追い詰められ、仕事だと思わなければやってられない、そんな仕事が世の中には溢れている。
ささくれてすり切れたその気持ちをオフによって遮断し、切り替えないと壊れてしまう。
しかし、だからといってそうした仕事でのストレスや苛立ちを、腹いせのようにプライベートで他の誰かにぶつけたり、誰かを傷つけるようなことはあってはならない。
じゃ、どうしたらそんな苦しい中でも柔らかな人間性を保てるのか?
カレはこんな風に思ってみる。
仕事であれプライベートであれ、相手に対する優しさや思いやり、気遣いや心配りを忘れないこと。そして、相手の立場でもモノを考えること。
それを、世間知らずのキレイごとだと笑い、最初からその志を放棄してしまえば自分も、そして世の中も何ひとつ変わることはない。
だからせめて、まずは自分だけは忘れないようにしよう。
いつでも優しさや思いやりのココロを、最初はほんの少しだけでもいいから。
そんな風に広く、そして大きな気持ちを感じるのは、異境感溢れるこの場所が気持ちやココロを広い世界へと連れ出してくれているからだろうか?
優しさ、思いやり、いたわり、ねぎらい・・・カレは思った。
こうした気持ちを自分に強く深く根付かせることこそが、どんな人にとっても何より最強の「ギャップ萌えの萌芽」になるのかもしれない、と。
少し離れた席では異国の言葉が飛び交っている。
もしかしたら自分はその国名さえ知らないかもしれない。
テラス席を照らす夕日、今日はその色彩が異世界のように感じられる。
もう少しだけ、この雰囲気とそしてこの気持ちに浸っていたい。
カレは新しいドリンクを注文した。
ローズヒップティー・・・カレのココロはアジアからヨーロッパへ。
夕日のようなその赤みの先、まだ見ぬ彼の地に思いを馳せながら。
つづく
文・山田孝之 編集@marony_1008